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【スポーツ ? テクノロジー:第2回】

MIZUNOシャフトオプティマイザーで劇的に変わるゴルフライフ

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前回のスイングトレーサーに引き続き、ミズノ社で開発されて実際に現場で活用されているテクノロジーをご紹介いたします。

今回はゴルフスイングを可視化することができる「シャフトオプティマイザー」。
ミズノ淀屋橋店にて、実際にシャフトオプティマイザーを使用したフィッティングを体験しながらお話を伺いました。

【お話を聞かせてくださった方】

ミズノ株式会社 ゴルフ事業部 次長

賀屋和也

・同志社大学法学部 1983年3月卒業 同年4月入社

・入社後は名古屋営業所に配属、ゴルフ営業を担当

 その後ゴルフ用具の企画開発、フィッティング担当、ゴルフ事業部担当などゴルフ一筋

・商品企画に携わったゴルフ品は、NOTUSシリーズ、TOURBIGシリーズ、ミズノプロシリーズ

・趣味:ゴルフ・自転車ツーリング・落語鑑賞

 

ミズノ株式会社 ミズノアベール店舗販売部 西日本ゴルフ販売課

チーフクラブフィッター マネージャー

平田修之

・1994年から20年以上、ゴルフ用品の小売業に従事

 2012年からミズノ淀屋橋店ゴルフ売場に配属

 2016年、チーフフィッターに就任

・経験豊富な販売とフィッティング経験により、学生からトップアマチュアまで多数の顧客

 から支持を受ける

 接客、フィッティングを通じてお客様のお役に立つこと、喜んでいただくことがモットー

■シャフトオプティマイザーとは?

――シャフトオプティマイザーとはどういうものでしょうか?

賀屋: シャフトオプティマイザーを使う目的は、まずここ(下記写真)を見ていただくとよくわかります。
ヘッドがたくさんあるでしょう。いろんな種類があるんですけど、同じ種類でも更に「ライ角」(※後述)がノーマル・アップライト・フラットとあるんですね。

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賀屋: 同じようにシャフトも見ていただくと、たくさんあります。

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――すごい数ですね。

賀屋: このヘッドとシャフトはカチャッとくっつけられるんですよ。
ただ、これだけあるものを全部打っていって一番良いものを、と言ってもしんどいでしょう(笑)

ですから、まずシャフトオプティマイザーでスイングを計測して、お客様に合うシャフトをベスト5くらいに絞り込みます。
それを実際に試していただいて、一番合うものを探していきます。

シャフトオプティマイザーは、シャフトにセンサーを取り付けて実際にボールを打つことで、以下の数値を計測します。
     
  • ヘッドスピード:インパクト直前のヘッドの速さ
  •  
  • スイングテンポ:トップでのシャフトのたわみ量
  •  
  • トゥダウン:インパクト直前のトゥダウン方向のシャフトのたわみ量
  •  
  • 前反り角:インパクト時にシャフト前方向<飛球方向>に反る角度
  •  
  • しなり係数:スイング中のしなり位置
ミズノでは、このゴルファーが持っているスイングの特徴を『SWING DNA(スイング ディーエヌエー)』と言っています。

 

■シャフトオプティマイザーを体験

今回も弊社代表の金島が身体を張り、アイアンでの測定を体験することになりました。
まずカルテを作成するための簡単なカウンセリングを行います。

【カウンセリング内容】
 ・年齢:38
 ・身長:177cm
 ・ゴルフ歴:15年
 ・平均スコア:100~105
 ・ラウンド回数:3-4カ月に1回
 ・練習回数:月1回あるかないか
 ・スポーツ歴:小1~高校3の間野球をしていた。現在はしていない

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平田: ゴルフをしていて自分がリスト(手首)を強く使っているなーという感覚はありますか?

金島: よくあります。左の腕の力が強いので、ドライバーでもアイアンでもひっかけて左に行くことが多いです。

平田: 金島さんのゴルフに対するクラブの役割、求めるものは何ですか?要望というか。
構えやすさであったり、かっこよさであったり、それよりもやさしく遠くに飛んでほしい、とか。

金島: そうですね。やさしく遠くに飛んでほしい、ですね。それとお金でゴルフが上手くなりたいです。

全員:笑

次に打つクラブを決めるために、地面からの手の位置を測ります。
平田さん曰く、クラブを選ぶにあたってこの長さは非常に重要なのだそうです。
金島は78センチということでした。

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平田: 打っていただく6番アイアンを選ぶ基準があります。こちら(下の写真参照)を目安にします。身⾧が177センチで地面から手の位置78センチだと、基準より少し⾧めがいいですね。

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平田: では、シャフトオプティマイザーを付けて3~4球打っていただきます。


シャフトに付けたセンサーで計測した各指標の数値をタブレットに入力していきます。

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金島のスイングの結果の数値は以下のようになりました。

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平田: ヘッドスピード以外のスイングテンポ、トゥダウン、前反り角、しなり係数は、シャフトのしなりを表すデータなんですね。
身長や手の長さが一緒、ヘッドスピードが一緒でも、皆さんやっぱりスイングは自分の感覚で振られているので、シャフトのしなりって人によって違うんです。
だから、皆が同じシャフトで合うはずがない。

同じように打っているつもりでも、感覚は人それぞれ違うので。その違いが、ミズノで言う 『SWINGDNA』ということです。

――金島の場合はどういう感じなんでしょうか。

平田: ヘッドスピードが40.8m/s。なかなかアイアンで40m/s出る人っていないんですね。本格的にゴルフをやっている方、もしくは野球をやっていることが影響しているかもしれません。
スイングテンポも6でややトップでの切り返しが速めなので、クラブを選ぶ要素として重要なのは「シャフトの重さ」。
軽いものを使うと上体だけで手打ちになってしまって、かえってクラブがインサイドから入ってダフリが多くなったり、左右の暴れが多くなります。

■フィッティング ~ライ角の異なるヘッドを試す

シャフトオプティマイザーの測定結果から5つの推奨シャフトが示されました。
後ほどその推奨シャフトの試打を行いますが、その前にシャフトに付けるヘッドのフィッティングから行います。

平田:ヘッドで大事なのが、ライ角。ライ角はご存知ですか?

金島:何度か聞いたことはあります。

平田:ライ角というのは、ヘッドを地面に設置した時に、地面に対する角度のことなんですね。

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平田: ボールを打たずに構えただけのライ角は問題がないように見えます。けれど、実際に金島さんが打つと左に行くという場合は、インパクトの時にきっちりフェースがターゲット方向を向いているかが大事になるんですね。
ですので次に、インパクトの時のソール痕で適正なライ角がどれくらいかを見させていただきますね。

今度は、普段ゴルフをするときには見かけることのないプラスティック製の板の上にボールを置き、ライ角の異なる3種類ヘッドを使って打ってみます。

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上の写真左から
 ① 標準的な規格のライ角61度のヘッド
 ② プラス2度アップライトした63度のヘッド
 ③ プラス2度アップライトした65度のヘッド
で打ったソール痕です。

平田: これを見るとわかるように、規格のライ角(①)だとフラットすぎます。
次に2度アップライト(②)と4度アップライト(③)はほぼ同じところに当たって変わりがないですね。 もともと引っかかり気味なので4度まで上げると、逆にドロー系の球が強くなりすぎるかもしれないので、今の段階だと2度アップライト(②)でいいと思います。

■フィッティング ~シャフトを試す

次は、先程の2度アップライトのヘッドと、シャフトオプティマイザーで勧められたシャフトを組み合わせてフィッティングを行っていきます。
平田さんのお話では金島はパワーヒッター。重めのシャフトがフィットするそうです。

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シャフトオプティマイザーでの計測で推奨されている上位2本に、先ほど決まったヘッドを取り付けて、再び試打した結果を確認していきます。

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平田: 2種類のシャフトを同じ状況で打ってもらったんですけども、やっぱり確率の良さが違います。データで見ていただいても、2本目のシャフトのほうが球が散らばっていない。安定して打てていますよね。

金島: 2本目は打ちやすかったです。打つ前からボールを捕まりそうだなという雰囲気がありました。こんなに差がつくもんなんですね。いやあ・・・。すごいな・・・。

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賀屋: よく「下手やからフィッティングなんかしても・・・」という方もいらっしゃるんですけど、皆さん上手くなりたいから練習されるのですが、自分に合ったもので練習するのと、無理矢理合わないもので練習するのでは上達する速さが間違いなく変わります。

平田: みんなここ(ヘッドの真ん中)に当てようとして振るんです。だけど、上手く当たらなかったりするのはシャフトが軽すぎるとか、しなりが合わない。
それを自分で合わそうとするから、どんどんいろんな動きになって余計に散らばるんです。

■開発のきっかけとこれまでの進化

―― シャフトオプティマイザーを作ることになったきっかけというのは何だったのでしょうか。

賀屋: 1991年に一番最初の機械であるフレックスアナライザーというものを作ったんです。
その後2~3回リニューアルして、2003年にシャフトオプティマイザーができました。
実はその技術を応用してできたのが、野球の スイングトレーサー なんです。

もともとフレックスアナライザーを作ったときは、日本はまだまだゴルフ後進国だったので、こういう直営店以外ではあまり導入が進まなかったんですね。
ところがアメリカではぶわっと一気に導入が進みました。やはりアメリカはゴルフの先進国でしたし、ツアーの注目度も高い。それとアメリカ人は新しいものが好きですし、数値やデータも好きです。感覚で選ぶよりもいいだろうと。
だから、今ではアメリカではアメリカではフィッティングをしてクラブを選ぶのが常識です。日本の10倍以上の店舗でミズノフィッテングが導入されています。

―― そうなんですか!

賀屋: はい。アメリカではフィッティングをしないミズノのセールスマンはいません。

――フレックスアナライザーが無かった1991年以前の頃は、どういった状況だったのでしょうか。

賀屋:当時もここで同じようにお客様が試打されていたんですけれど、お客様は当然いっぱい打たれるんですよ。それで疲れてしまって、結局何が合っているのわからへん(笑)

それでも5万人分くらいの記録、カルテがあったんですね。それを見ていて、これって層別できるのではないか?となったんですね。
例えば、ヘッドスピードが速くても柔らかいシャフトが合っていた人、逆にヘッドスピードが遅くても硬いほうがうまく当たる人。これなんでやろう?と色々分析すると、ヘッドスピードとか飛距離だけではなくて、どこでシャフトをしならせているかとか、インパクトの時にシャフトの先をたくさん使っているとか。

それらを層別できないかということで、前回スイングトレーサーでお話させていただいた鳴尾ら技術陣が、シャフトのしなりを測る機械とか何かないか?となったんです。
それでひずみゲージであったり、しなり測定器などいろんなものを駆使して、これは人によって違うぞ、と分類したんですね。

――シャフトオプティマイザーは一般ユーザー向けではないですよね。

賀屋: はい。BtoBですね。ゴルフクラブを販売するフィッター専用に作っています。
野球のスイングトレーサーはBtoC、お客様に対してなんですけども、やはり野球は指導者、監督やコーチがいらっしゃってそういう方が使いますよね。
けれど、ゴルフではなかなか個人にコーチを付けているアマチュアの方は少ないじゃないですか。なので我々のようなフィッターが、技術を教えるのではなく合ったクラブをお教えするんですね。

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――シャフトオプティマイザーはプロの方も使われるのですか。

賀屋: 使います。
毎年シーズン前と後にやりますね。プロの方は、シーズン中でも、ちょっとずつスイングを変えている場合があるので。でも実は、プロでも、スイングを変えたつもりでも、SWING DNAの数値はあまり変わらないんですけどね(笑)
でも結果を見て安心しはるんです。

平田: よくいただく質問で、練習して半年後に計測したらデータが変わるのか?というのがあるんですけど、確かにスイングの精度が高まってミスショットが減る可能性はあります。
けれど、その人の持つ基本的な癖というものは変わらないです。

賀屋: ヘッドスピードは速くなるんです。よく練習すると。でも、スイングテンポとかトウダウンとか前ぞりとかは変わりません。
大きなけがをしたとかで筋力が急に落ちると、変わる可能性はあります。けれども元気な方なら、年を取ったらスピードは落ちますが、癖は変わらない。
これが、現実です。

――現在のシャフトオプティマイザーはかなり洗練された形になっているのではないかと思います、初期の頃からこういった形だったのですか。

賀屋: フレックスアナライザーの頃は、スイングテンポだけだったんです。それだけで診断してたんですけど、7割の人が合っても、残りの3割は「やってみても(クラブが)合わない」と。
だからスイングテンポだけでは診断しきれないんだと、トウダウンや前ぞりであったり、しなり係数みたいなものなどをもっといろいろセグメントするようになって、精度が上がってきたんですね。
まあ、生身の人間の千差万別あるスイングに対して機械でお勧めするので完璧はないんですけど、できるだけ的中率を上げるのが開発側のテーマです。

――では今も常にデータを見てもしかしたらこんなセグメントあるのではないか、とか、もっと細分化したほうがいいのかなど研究されておられるのですね。

賀屋: はい。やってます。
先ほど平田が入力したデータもクラウドに落ちて日々データが蓄積されています。あ!こんな特殊な人もいるんや、こんな人にでも正確に勧められるようなひずみゲージはないやろか、ジャイロセンサーはないやろかと。
要は100点を目指して、でも100点にはならないんですけども、それを目指すのが僕らの仕事ですね。

――これからもシャフトオプティマイザーの進化は続くということですね。

賀屋: はい。まだまだ進化しますよ。あと半年か1年の内にリニューアルして、もっと使いやすく進化させたいです。
もっと短時間に、もっと正確に、もっと簡単に使えるようにしていきます。

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賀屋様、平田様、取材へのご協力ありがとうございました。

 

■取材後記
フィッティング前と後の金島の打球の変化が非常によくわかり、思わず目を見張りました。

「一度フィッテイングを体感されると、二度とフィッティングなしにクラブを作れないんですよ。」とのことでしたが、フィッティングを体験してしまった金島はそのお言葉の通り、取材が終わってすぐにプライベートでのフィッティングを予約しました。もうフィッティングを体験する前には戻れません。

シャフトオプティマイザーとこれを使用したフィッティングは、「ゴルフがうまくなりたい」というゴルファーの願いを本当にかなえてくれるかもしれないすごい技術でした。

【参考情報】
ミズノ社員のフィッターのフィッティングが受けられるのは全国で13箇所、それ以外にもセミナーを受けたフィッターがいる専門店が約100店舗あるとのことです。
詳細はミズノのHP(http://www.golfersland.net/fitters/)をご確認ください。


(取材・文・写真:SPAIA編集部)

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