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バレーボール天皇杯皇后杯で快進撃!観客の心を掴んだ青山学院大と近畿大

2023 12/29 06:00大塚淳史
青山学院大の選手たち,筆者提供
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筆者提供

インカレでの無念の敗退を糧に快進撃

バレーボール男女のカップ戦「天皇杯・皇后杯」は12月17日、天皇杯はパナソニックパンサーズが5大会ぶりの優勝、皇后杯はNECレッドロケッツが2連覇を果たして幕を閉じた。

一方で、V1(1部)からV3(3部)、高校、大学とあらゆるカテゴリーのチームが参戦する同大会ファイナルラウンドで、大会を盛り上げたのが大学チームだった。

女子は青山学院大、男子は近畿大がVリーグ勢を相手に、胸熱な戦いを連日見せて観客の心を掴んでいた。両チーム共に共通するのは直前にあった全日本バレーボール大学選手権(インカレ)での無念の敗退。悔しさを胸に年度最後の大会に臨んだ末の快進撃だった。

自然発生で起こった「あおがく!あおがく!」

皇后杯ファイナルラウンド2日目の12月9日、東京・武蔵野の森スポーツプラザの他3コートがこの日の試合を全て終えていた中、午後7時を過ぎても青山学院大と東レアローズが2時間以上にわたって激戦を繰り広げていた。

皇后杯初出場の青山学院大は、前日の1回戦でJAぎふリオレーナ(V2)に3-0で勝利した勢いそのままに、V1の強豪・東レに挑戦した。

リベロを除いたスタメン平均身長は、東レの約177センチに対し、青山学院大は約172センチ。代表選手を擁する東レがあっさり勝つかと思われた。しかし、序盤から競った展開が続いた。東レがイタリア代表シルビア・チネロ・ヌワカロールへボールを多く集めて点を重ねていく一方、青山学院大は東レの攻撃に対して、しつこく守備で対応してから攻めて加点していく。

とにかく光ったのが、青山学院大のチーム力。谷島花虹(3年)やエドックポロかれん(3年)がブロックで食らいつけば、ブロックの横や上を抜かれてもリベロ伊藤鈴夏(2年)を中心にレシーブし、大きくボールがそれても、必死に追いかけてはつなぐ。

耐えた後には、主将でセッターの勝又心(4年)が、テンポ良く両サイドに散らして、北林桃佳(4年)や高橋美鈴(3年)が東レの高いブロックに臆せず力強く何度も決めていった。

青山学院大の勢いが勝り第1セットを先取。ここからさらに試合はヒートアップしていく。東レはV1強豪中の強豪。意地でも負けられない。第2セットを奪ったが、第3セットを再び青山学院大が取った。

第4セットに突入すると、あまりの熱い展開に、観客席から「あおがく!あおがく!」と応援コールが自然発生。それに負けじと東レコールも発生して応援合戦が繰り広げられた。第4セットをなんとか東レがものにし、運命の第5セットへと突入した。

快進撃を見せた青山学院大

筆者提供


第5セットも同様の展開が続いたが、東レが14-12と先にマッチポイントを取り、いよいよ青山学院大は万事休すかと思われた。ところが、ここで青山学院大が2連続得点してジュースに持ち込むと、今度は逆にマッチポイントを2回も握った。

しかし、負けるわけにはいかない東レが、最後は青山学院大・高橋の強打をブロック。東レがマッチポイント7回目の末、第5セットを22-20で取り、青山学院大はついに力尽きた。

青山学院大の選手たちは、負けた直後、床に崩れ落ちたり、涙を流す選手もいたが、会場の観客から万雷の拍手を浴びた。間違いなく、今大会のベストバウトの一つに入る、感動を与えてくれた試合だった。

センス光った青山学院大セッター勝又が選んだ卒業後の進路

この試合で特に驚かされたのが勝又。身長170センチと女子選手のセッターとして、大学では高い部類だろうが、Vリーグでは平均的な高さよりややあるくらい。

しかし、トスする際の姿勢が美しく、両腕を伸ばした上にしっかりジャンプした状態からボールを上げるため、対峙するブロッカーは判断が遅れ、恐らく東レのミドルブロッカーはどちらのサイドに上げるか最後まで苦慮したはず。特に勝又の上げるジャンプしてのバックトスは絶妙で、高確率で東レのブロックを破っていた。

青山学院大の勝又

筆者提供


試合直後、青山学院大の勝又と北林は共に4年生で、学生生活最後の公式戦を終えたこともあって涙していたが、囲み取材の時には笑顔があふれていた。

「この大会自体、出るのが初めて。プロのチームと公式戦で戦えることにわくわくしてた。なおさら最後の試合だったし、出し切ってやろうと臨みました。もちろん勝ちたかったし、一日でも長くやりたかったんですけど、やりきれた試合だったので後悔はないです」と勝又が笑顔を見せれば、北林も「全日本インカレ優勝という目標をかかげて1年間やってきたんですけど、思うような結果を出せず、なかなか切り替えが難しかった。全員でもう一回、皇后杯に向けて必ず勝ちというものを掴みたいという思いから、残りの1週間練習を積み上げた。こうやって最後は負けてしまったんですけど、結果を残せ、最後の大会がこれで良かったなと本当に思います」と晴れやかだった。

青山学院大は関東大学リーグやインカレで過去に何度も優勝している名門だが、近年は筑波大学や東海大学らの後塵を拝していた。皇后杯直前にあったインカレでは3回戦で東海大に負けていた。

「もちろん悔しい気持ちがあった。今年度は『泥臭く相手を翻弄するバレー』で勝とうと掲げていて、それを完成させようっていう意気込みで、そして、このチームでできる最後の大会だからこそ、全員気持ちを切り替えて臨みました」(勝又)

まさにその標語通りのバレーをコート上で見せてくれた。観客席からの青学コールは聞こえていたか問うと、2人は「はい」と声をそろえ、勝又が「実は試合が始まる前、『青学カラーに染めよう』と言っていたので嬉しかった」と話せば、北林は「プロの方々への応援が多いのは分かっていた。それでも私たちのバレーを見て応援したいと思ってもらえるチームを作っていきたいと1年間ずっと取り組んだ。最後に青学コールを聞いて、『あぁ、なんかできてるのかな』と感じて、そういうところも最後で後輩に見せられて良かった」と感無量だった。

イップスを克服してコートに立った名セッター

個人的には勝又のプレーに驚かされ、北林も東レ相手に何度もスパイクを決める実力を見せていたため、てっきり2人とも卒業後はVリーグでプレーするのかと思っていたが「実はもうバレーを続けないんです。バレーを引退して就職します」(勝又と北林)というまさかの回答。

さらに勝又から驚きの話が続いた。

「実は高校生(愛知・岡崎学園)の時にイップスになって、春高もチームとしては出たんですけど、自分は出れなくて終わった。大学進学も迷った。セッターなのにトスを上げようとしたら全部ドリブルになってしまう状態。大学に入学したものの、直すのに1年半ぐらいかかった」

しかし、青山学院大バレー部最盛期のセッターで、NECレッドロケッツでも活躍した秋山美幸監督が親身になって相談に乗り、また先輩たちも克服する練習を手伝ってくれ、壁を一つ一つ乗り越えていったという。そして、大学3年の秋季リーグでついにスタメンで出るようになった。

「仲間がいるから頑張れたというのもあるし、一緒に支えてくれる監督だったり、仲間のために、自分がコートに立ってもう一回上げたいっていう気持ちが出てきてから上げられるようになった。でもその繰り返しで、本当に徐々にでした」

青山学院大の勝又と北林

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その後も、また調子を落として、後輩のセッターに出場を託した時は「本当に辛くて自分の存在意義は何だろう」と落ち込むことがあったが、「大学でやりきると決めたから絶対このままじゃ終われないと思い、自分の考え方、練習の仕方を見直して、取り組んだら変わりました」

だからこそ、皇后杯の東レとの激戦で、全て出し切れたのだろう。卒業はメーカーに就職する。

「(イップスに苦しんで)正直これより辛いことはないんじゃないかって思うこともあった。でも、どうしたいかっていうのが本当に大事なんだなと気づかされた。会社でも目標を立てていく中で、目標に向かって自分がどうしたいのかっていうのを考えてやっていきたいなって思っています」

イップスはそう簡単に克服できることではない。Vリーガーでもイップスに苦しむ選手はいる。勝又はその困難を乗り越え、インカレこそ悔しい思いをしただろうが、現役最後となった東レ相手に観客の心を掴んだ大熱戦を味わえた。この経験は、きっと社会人になっても励みになるに違いない。

関西で無類の強さ誇る近畿大もインカレで早稲田大に完敗・・・からの天皇杯快進撃

男子の天皇杯で大暴れした大学チームが、近畿大学だった。1回戦でヴォレアス北海道、2回戦でVC長野とV1(1部)のチームを相手に、いずれもフルセットの末に破り、準々決勝進出という快挙を果たした。

東京グレートベアーズ入りが決まっている主将の後藤陸翔(4年)や中西武琉(4年)が鋭いジャンプサーブや、キレのあるスパイクを決めれば、コンゴ人留学生のフランシス・ムヤカバング(4年)が身長206センチの高さとパワーを生かしたスパイクとブロックでV1の北海道や長野に立ちはだかり、大学チームらしい思い切りの良さを発揮して打ち破っていった。

準々決勝では、昨シーズンのV1リーグ覇者であるウルフドッグス名古屋に1−3で敗れはしたものの、第2セットを奪って1−1とするなど、観客からは「またジャイアントキリング!?」と期待させる近畿大の戦いぶりに会場が盛り上がった。

V1勢3チームを相手に、攻守で存在感を見せた後藤主将は「最後のウルフドックス戦で、接戦の中での最後の3セット目を取り切れなかったことは悔しさが残っていますが、やりきった感覚はありますし、やるべきことやったので後悔はありません」と学生生活最後の大会を締めくくった。

準々決勝に進出した近畿大

筆者提供


近畿大も直前のインカレで悔しい思いをしていた。

関西大学リーグで圧倒的な強さを見せる近畿大だが、インカレでは1999年の準優勝を最後になかなか優勝には届いていない。また、大学バレーでは高校の有力選手たちの多くが関東の大学に進学する。そんなハンディがあっても、好選手がそろっていた今年度のチームに光山秀行監督の期待は非常に高かった。

早稲田大には水町泰杜、山田大貴、伊藤吏玖といったV1のチームに入団する実力者に加えて日本代表の麻野堅斗もいる。勝つのが難しい相手とはいえ、それでも近畿大は夏場に早稲田大を招待して公開練習試合を行うなど、「打倒早稲田」に向けて着実に準備をしてきて、手応えも感じていた。

ところが、インカレの準々決勝で早稲田大に0−3と完敗してしまった。

内容がなかなかショッキングだった。早稲田大の圧倒的な力の差というよりは、何度か取材させてもらっていた記者の目から見ると、近畿大の選手たちが本来持っているはずの実力を全く出し切れないまま、ミスも頻発して自滅のような形で終わってしまった。

「自分たち4年生が主役のインカレで、あの負け方をして悔しい気持ちがありました。率直に、同じ大学生のカテゴリーでやってて、あそこまで差が開いたのは自分たちが力を出し切れてなかった。早稲田さんがこちらに力を出させてくれなかった。そこの悔しさが不完全燃焼な感じがあり、あの負け方をしたことで、自分の競技人生にもっといかせるものがあるというポジティブな考えにはなりました」(近畿大・後藤主将)

いったんチームは大阪に戻って休みを1日挟み、再び天皇杯に向けて選手たちは気持ちを切り替え、前を向いた。再び上京して大会にのぞんだ上での快進撃となった。特に、年明けから東京グレートベアーズの内定選手として、V1リーグの公式戦に出場する可能性がある後藤にとっては、天皇杯で得た経験と手応えは大きいだろう。

大学チームたちの一番の目標となる大会はインカレではある。そこで悔しい思いをしても、天皇杯皇后杯で格上相手に奮闘し、さらには試合内容でも観客を惹きつけた。こういう大学最後の試合の終わり方も良いなと思わせる両チームだった。

準々決勝に進出した近畿大

筆者提供


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