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九州共立大史上初の3年生主将・梁瀬慶次郎、4年生にも喝を入れて10年ぶり王座奪還

2022 8/1 06:00内田勝治
九州共立大の梁瀬慶次郎主将,筆者提供
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筆者提供

春のリーグ戦最優秀選手賞、一塁手で2度目のベストナイン受賞

福岡六大学野球春季リーグ戦で10年ぶりに優勝した九州共立大学を引っ張るのは3年生主将の梁瀬慶次郎内野手(長崎日大)だ。

同大学史上初の大役に任命され「プレッシャーや責任が大きかった」と話すが、リーグ戦前から五厘刈りにしてチームを鼓舞。自身も40打数18安打12打点、打率.450で最優秀選手賞、2度目のベストナイン(ともに一塁手)を受賞するなど、見事に重圧を力に変えてみせた。

「自分が人一倍勝ちたいという気持ちを表現するタイプなので、それにチーム全員がついてきてくれたかなと思います。神宮を経験していない学年だったので、全員が全国にいきたいという気持ちが強かったです」

親孝行のため石川県から長崎日大へ進学

心優しき男だ。出身は石川県。兄の彪慶(たけし)は名門の星稜高校で甲子園に2度出場した。自身も星稜高校に進学することは選択肢の一つだったが、長崎日大の金城孝夫監督(当時)から熱心な誘いを受け、心が揺れた。

「両親が長崎出身なんです。両親も自分の大会のたびに長崎に帰ることができるし、祖父母にも会えるので、長崎にいった方がいいかなと」

親孝行のため、長崎日大への進学を決心した。ただ、聖地は遠く、3年夏の長崎大会でも準々決勝で創成館に敗退。兄と同じステージに立つことはできなかった。

一浪の末に九州共立大学入学、2年春から主軸に

大学進学は関東の名門校を希望も不合格。1年浪人した後、兄が通う大学を第一志望に受験したが、夢が叶うことはなかった。

「(第一志望校の結果が)ダメだったら、現役の時の話をもらっていた九州共立大に行こうと決めていた」。気持ちを切り替え、大野倫(元巨人)や、柴原洋、新垣渚(ともに元ダイエー、ソフトバンク)らを輩出している福岡六大学の強豪校に入学した。

浪人中に体重が高校3年夏の84キロから102キロまで増え「相当動けない体になっていた」が、新型コロナウィルスの流行もあり、春のリーグ戦は中止に。その期間、母校の長崎日大に戻って体を一から作り直し、86キロまで絞り上げた。

翌2021年春のリーグ戦からレギュラーに定着し、36打数13安打14打点、打率.361で初のベストナインに輝くなど、2年生ながらチームの主軸へと成長していった。

そして2021年秋のリーグ戦を終え、新チームへと移行するタイミングで、上原忠監督はある決断をする。新3年生の梁瀬を主将へと就任させようというのだ。上原監督は「春はずっと神宮に出ることができなくて、何かを大きく変えないといけないと思った」と意図を説明する。

九州共立大学は、今春を含めて44度のリーグ優勝を誇る名門だが、春のリーグ戦優勝校が出場できる全日本大学野球選手権大会には、大瀬良大地(現広島)らを擁した2012年が最後。九州産業大学に長らく王座を明け渡していた。

ライバルの壁を打ち破るべく、3年生主将を据える大改革へと乗り出したが、当然、反発もあった。上原監督の元に「新4年生から(主将を)出してほしい」と訴えた選手もいた。

梁瀬は一浪で入学しているので、新4年生と年齢は変わらないが、一学年下の後輩であることに変わりはない。1週間に及ぶ話し合いの末、「梁瀬を助けよう」という結論で一致。春の王座奪回へ、チームが一つになった瞬間だった。

4年生にも物怖じせず「お前らやる気あるのか!目が死んでいるぞ!」

今春のリーグ戦中に、梁瀬が強烈なキャプテンシーを発揮したシーンがある。試合中に覇気が見られない4年生に対し、ベンチ前で「お前らやる気あるのか!目が死んでいるぞ!」と声を張り上げたのである。

上原監督は「本当は監督が言わないといけないことを梁瀬が言ってくれた。相手の監督さんからは『(上原)監督さんが怒っているのかと思いました』と言われましたよ」と苦笑する。監督の思いを代弁できる梁瀬を主将に据えたことは間違いではなかった。

そして迎えた最終週、九州産業大学に1勝を挙げれば優勝が決まるカードで、1戦目こそ3-5で黒星を喫したが、2戦目、7―0の7回コールドで宿敵を退け、44度目となるリーグ優勝を果たした。

全国大学野球選手権では1回戦の東北福祉大戦(仙台六大学)で先制打を含む3打数2安打1打点と4番の仕事を果たし、2―0で初戦突破に貢献。続く2回戦、福岡大学(九州六大学)との「福岡対決」では0―2で敗れたが「神宮は球場の雰囲気もよかったし、全国大会の雰囲気もいいところだなと思いました」。高校時代に出場できなかった全国の舞台は、3年生主将にとって得難い経験となった。

王者として迎える秋のシーズン。再び全国の舞台となる明治神宮野球大会へと出場するためには、リーグの上位に入り、九州六大学上位と九州地区大学上位で争われるトーナメントで優勝しなければならない。梁瀬は気を引き締める。

「春はチームで12試合中、本塁打を15本打ったんですけど、まずはそこを勘違いさせないようにしたい。本塁打で点を取る確率は低いと思うので、小技だったり、しつこさだったり、そういう課題を持ってチームとしては取り組んでいます」。

トレードマークの五厘刈り「秋が近くなったらまた切ろうかな」

ちょっぴり伸びた髪をさすりながら、春秋リーグ連覇、そして神宮でのリベンジを誓う。

トレードマークとなった五厘刈りについては「秋が近くなったらまた切ろうかな、と。姿で表していきます」といたずらっぽく笑った。今秋も、闘争心むき出しの3年生主将が暴れまくる。

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