圧倒的人気でも……
今週は阪神大賞典が開催される。メジロマックイーンやナリタブライアン、マヤノトップガンやスペシャルウィークなど1990年代に活躍した多くの名馬がここを勝利。2000年以降もディープインパクトやゴールドシップなどその時代を代表する馬たちが勝利してきた一戦である。
今回は阪神大賞典の「記録」を振り返る。以下、データは1986年以降のものを使用する。
これまで、単勝オッズ1倍台に推された人気馬は延べ26頭いる。そのうち勝利したのは15頭。1.5倍以内では12頭中9頭が勝利をあげている。一方、1倍台の人気を集めながら敗北した馬たちも当然いる。人気を集めつつ敗北した馬たちを単勝オッズ順に並べると下記の通りとなる。
1位 1.1倍 オルフェーヴル(2012年 2着)
2位 1.3倍 アリストテレス(2021年 7着)
3位 1.5倍 スルーオダイナ(1989年 失格)
4位タイ 1.6倍 ドリームパスポート(2007年 2着)
4位タイ 1.6倍 キセキ(2020年 7着)
4位タイ 1.6倍 ボルドグフーシュ(2023年 2着)
特に1位のオルフェーヴルが出走した2012年は、阪神大賞典の印象深いレースとして挙げる方も多いだろう。
逸走しても2着……衝撃の2012年阪神大賞典
2012年の阪神大賞典は、前年に三冠達成、有馬記念も制して年度代表馬に輝いたオルフェーヴルの古馬始動戦とあって、単勝オッズ1.1倍と圧倒的な支持を集めた。
しかしその一戦でオルフェーヴルは逸走してしまう。ほとんどレースをやめた状態から改めて隊列に戻ると、勝ち馬ギュスターヴクライに半馬身差まで迫る2着に押し上げた。まさに負けて強しと言える、過去にないほどのパフォーマンスに度肝を抜かれたファンは多かった。
その次走である天皇賞(春)では11着に敗れたオルフェーヴルだが、その一戦で阪神大賞典組は1着ビートブラック、4着ジャガーメイル、5着ギュスターヴクライと3頭が掲示板に食い込んでいる(2着は大阪杯からの臨戦だったトーセンジョーダン、3着は日経賞経由のウインバリアシオン)。
オルフェーヴルの凄まじいパフォーマンスに霞んでしまった部分はあるが、この年の阪神大賞典出走馬たちは強者ぞろいだったことがわかる。当のオルフェーヴルはその後、宝塚記念で勝利をあげると、秋には凱旋門賞で2着に好走。歴史に刻まれる走りを見せた。
同期対決を制したディープボンド
前述したランキング2位のアリストテレスは、スプリングSから連勝街道を歩んだオルフェーヴルとは異なり3歳春はクラシック未出走。若駒S、すみれSで連続2着、プリンシパルSは6着で、クラシックへの挑戦を断念している。その後8、9月の条件戦を連勝して菊花賞で三冠馬コントレイルの2着に食い込んだ。
明け4歳初戦のAJCCを完勝し、現役上位の強さを証明すると、次走は阪神大賞典へ出走。レースでは中団からの競馬になったが、直線で伸びを欠いて7着だった。
勝利したのは同期のディープボンド。2着馬ユーキャンスマイルに5馬身差をつけており、強さが光るレースだった。ディープボンドは翌年に連覇を達成するなど、同レースに4回出走した。
一方のアリストテレスも、7着だった阪神大賞典の次走、天皇賞(春)で4着、同年秋の京都大賞典2着など、長距離路線で存在感を示した。
出走回数トップは「8回」のトウカイトリック
ディープボンドが4回も阪神大賞典に出走したように、当レースに何度も挑戦する馬は多い。ゴールドシップが3戦3勝と圧倒的な記録を残す一方で、出走回数ではそれを大きく上回る馬たちもいる。阪神大賞典の出走回数ランキングは下記の通り。
1位 8回 トウカイトリック
2位 5回 ユーキャンスマイル
3位タイ 4回 トシザブイ、ファストタテヤマ、アイポッパー、ディープボンド
4回出走したのは、ディープボンドのほかに3頭。アイポッパーはオーストラリアGⅠのコーフィールドCでも2着となっている。トシザブイは阪神大賞典こそ5着→12着→7着→8着と奮わなかったが、目黒記念連覇、ダイヤモンドSで2度の3着などステイヤーとしての資質を示した。ファストタテヤマは皐月賞、ダービーでどちらも15着に敗れたが菊花賞で2着となり、以降も引退まで中長距離戦を盛り上げた。
いずれも長期に渡り現役トップクラスを維持した実力馬である。なかでも、ファストタテヤマは現役ラストの8歳シーズンになっても、大阪―ハンブルクCで勝利、万葉S、みなみ北海道Sで4着、宝塚記念で5着など年間9戦を走り抜いた。
ディープインパクトともオルフェーヴルとも戦った“トリック爺さん”
2位のユーキャンスマイルは5回の出走。5歳で当レース初勝利をあげると、翌年も2着、次の年も5着と好走した。7、8歳になっても、2年連続で新潟記念2着に輝き、ラストランとなった9歳の阪神大賞典(13着)まで見事に走り続けた。
ラストランの2024年阪神大賞典はメンバーも厚く、1着はテーオーロイヤル、3着はブローザホーンで、いずれも次走以降にGⅠを制している。次なる名ステイヤーたちにバトンを渡す形となった。
そして出走回数トップに輝いたのは8回のトウカイトリック。当レースの初出走は2006年で、勝ち馬は同期のディープインパクトだった。最後の阪神大賞典出走は11歳となった2013年で、勝ち馬は7歳下のゴールドシップ。同レースの4着はディープインパクト産駒のベールドインパクトと、世代を超えて走り続けた名馬である。
出走8回の戦績を並べると、以下の通り。
2006年2着
2007年3着
2008年4着
2009年5着
2010年1着
2011年12着
2012年6着
2013年5着
掲示板内(5着以内)に入った回数も6回と当然トップ。また、オルフェーヴル逸走の2012年にも出走しており、2頭の三冠馬と阪神大賞典の舞台で競走したことになる。今後、この記録を抜く馬は現れるのだろうか。
ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。
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