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【スプリングS回顧】ピコチャンブラックが勝ち切り“ブラック三代V”達成 勝負強い母系も魅力、気になるのは反動だけ

2025 3/17 10:56勝木淳
2025年スプリングステークス、レース結果,ⒸSPAIA
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流れを変えたキングスコールの仕掛け

皐月賞出走をかけたトライアルは雨のなか行われ、ピコチャンブラックが重賞初制覇を達成。2着フクノブルーレイク、3着キングスコールと入り、この3頭が皐月賞への出走権を獲得した。

先週の弥生賞はファウストラーゼンが大胆なまくりを打ち、そのまま粘り込むという味な競馬をみせたが、スプリングSも似たような競馬になった。

隊列は最内ダノンセンチュリーがハナに立ち、内枠クモヒトツナイ、ニホンピロデヴィンが続く。予想段階では並びが微妙だったものの、すんなりと形が整い、1コーナーへ入っていった。

この時点で、スローは確定。実際3ハロン目から12.7-12.5と息を整えながら、勝負のタイミングを待つ。そんな流れになった。

これを嫌ったのが、スタートで遅れたキングスコールだ。向正面半ばで外から進出し、流れを変えた。

好位の外でなだめていたピコチャンブラックはこの動きに反応した。折り合いに課題を抱え、気が入りすぎてしまうため自滅もあるタイプ。外枠で壁がないままコーナーに入ったこともあり、鞍上の石橋脩騎手もなだめることに集中していた。それがキングスコールの動きを察知すると、我慢を解き放った。

外から被されれば、さらに折り合いが難しい状況になってしまう。であれば、勝負。この判断が勝利をたぐり寄せた。同時にレースラップは5ハロン目から11.7-11.7と一気に上昇。ピコチャンブラックに抵抗したダノンセンチュリーや、好位で溜めていた馬たちは早めに体力を消耗してしまった。


味わい深いバレークイーン牝系

後半600mは12.7-12.3-13.1。重馬場で早めにレースが動くという消耗戦を押し切ったピコチャンブラックはしぶとく、スタミナを感じる。

父の父ブラックタイド、父キタサンブラックに続いてスプリングSを制した“ブラック三代”は、持続力と我慢強さが最大の武器。ブラックタイドのスプリングSは稍重で1:48.3、キタサンブラックは良馬場でも1:49.1とさして速い時計にならなかったのも味方した。

父は土砂降りの天皇賞(秋)でライバルたちが避けるインを進み、力強く差し切った。逃げ先行でみせる粘りが身上だっただけに、あの天皇賞(秋)は伝説として語り草になった。ピコチャンブラックが重馬場で早め先頭から押し切ったのは、ある意味で必然のようにも思える。

一方で、祖父も父も皐月賞を勝てなかった。スプリングSからのレース間隔の問題だが、そもそもスプリングSでの消耗が尾を引いた。ピコチャンブラックもそれが問題だろう。

インパクトの大きなトライアルとは、言いかえると消耗度の激しさでもある。であれば、今年も消耗するトライアルになってしまったから、心配だ。

とはいえ、勝たないと先はなく、守っていても仕方ない。今回は勝ち切り、ダービーまで進める賞金を獲得したことが大きい。

父系がクローズアップされる血統だが、母トランプクイーンの母はバレークイーンなので、フサイチコンコルド、ヴィクトリー、アンライバルドというクラシックウイナーをはじめ、錚々たる面々が近親になる。

トランプクイーンはバレークイーンがこの世に遺した最後の産駒。クラシックでの勝負強さから“バレークイーン一族”は高い評価を受けてきたが、まだまだ血脈は続いていく。

サドラーズウェルズを内包したこの血はサンデーサイレンスを重ねることで、スピードへの対応力を醸成し、底力勝負でこそ輝く。味わい深い血脈だ。


フクノブルーレイクのウインブライト産駒らしさ

2着フクノブルーレイクは2017年にスプリングSを勝ったウインブライトの産駒。1、2着は“スプリングS血統”だった。

ウインブライトは中山記念連覇もある中山芝1800mの鬼。5歳時には香港の2000mGⅠ2勝と息長く活躍した。フクノブルーレイクもこれから楽しみが広がる。

レース振りを見ても中盤で動きがあった地点では呼応せず、4コーナー手前残り600mから進出し、そのタイミングはどんぴしゃ。コーナーで動ける機動力はウインブライトのよさが出ている。

3着キングスコールは札幌デビュー戦以来の実戦がトライアルGⅡと状況は非常に厳しかった。スタートで遅れたのもその象徴のような場面だったが、そこから挽回し、さらに途中で動くなど、荒削りながら確かな素質を感じる立ち回りだった。

苦しい状況のなかでの権利獲得は大物感すらある。直線勝負でとったのではなく、自ら動いての3着は着順以上の価値を感じる。


2025年スプリングS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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