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【金鯱賞回顧】前半5F58.2の激流が能力を明白に クイーンズウォークは「左回り×長い直線」で楽しみ広がる

2025 3/17 10:49勝木淳
2025年金鯱賞、レース結果,ⒸSPAIA
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興味深かった騎手の配置

大阪杯の前哨戦に位置する金鯱賞は牝馬のクイーンズウォークが勝ち、2着ホウオウビスケッツ、3着キングズパレスで決着。逃げたデシエルトは4着に敗れた。

騎手の配置を含め、戦前から興味が尽きない一戦だった。3連覇をかけるプログノーシスは連覇のパートナーである川田将雅騎手ではなく、西村淳也騎手が騎乗。川田騎手は同じく中内田厩舎に所属の4歳牝馬クイーンズウォークに回った。

デシエルトは14戦のうち10回騎乗した主戦・岩田康誠騎手から武豊騎手へスイッチ。岩田康誠騎手はホウオウビスケッツに騎乗した。こちらも康誠騎手が5回騎乗して【2-1-2-0】と相性抜群。康誠騎手を巡る水面下の動きはわからないが、奥村武調教師との関係は深く、厩舎の重賞勝利7勝のうち4勝は康誠騎手によってもたらされた。

一方、中日新聞杯を逃げ切ったデシエルトに騎乗する武豊騎手と金鯱賞といえば、サイレンススズカを思い出す。実際、サイレンススズカのような逃げを打つといったコメントもあり、観る側は戦前から胸が高鳴った。さすがは競馬界きっての千両役者。楽しませてくれる。

そのデシエルトとホウオウビスケッツの関係も興味深い。後者も巴賞逃げ切り、天皇賞(秋)3着と逃げてマイペースを刻んだ際はしぶとい。まして騎乗するのはデシエルトを知り尽くす康誠騎手。2番手もOKなタイプなので、控えるのはホウオウビスケッツだとしても、デシエルトをどこまで追いかけるかなど、細部にわたって展開予想が楽しめた。


ゴールまで脚を残したクイーンズウォーク

で、実際はどうだったのか。デシエルトとホウオウビスケッツのスタートは互角だったが、ホウオウビスケッツに争う気配はなく、デシエルトがハナへ。並びはすんなり決まったわけだが、デシエルトがペースを落とさない。中盤までのレースラップは13.0-11.2-11.5-11.3-11.2の5F58.2。1、2コーナーから向正面にかけて思い切り飛ばした。

旧コースの記録だが、サイレンススズカは同58.1。確かにサイレンススズカ級の逃げだった。だが、武豊騎手はもう少し抑えたかったのではないか。後ろのホウオウビスケッツに追いかけられたくないとはいえ、大逃げに持ち込むまでは考えていなかったのでは。だが、デシエルトの強い前進気勢に対し、これなら抑えず行かそうと切りかえたようだ。

ただ、さすがに前半で突っ込みすぎたか、後半1000mは11.9-12.6-12.7-12.8-13.1と見事に失速。これでも4着に残ったのは、後ろも強烈なペースに脚を使わされたからだろう。これも逃げ馬の武器。まして速い脚を繰り出しにくい重馬場では、後ろも逆転するのは難しい。そして、改めてデシエルトの能力も感じた。もう少し制御できるといいが、持ち味を生かして、中距離戦線を盛りあげてほしい。

それだけにきっちり末脚を繰り出したクイーンズウォークは見事だった。ホウオウビスケッツの背後につけ、同馬がデシエルトを捕まえに動いた地点から少し遅らせてスパート開始。ゴールまできっちり脚を残した。プログノーシスは達成できなかったが、川田将雅騎手と中内田充正調教師は金鯱賞3連覇を達成。このコンビはやはりマイルから2000m前後の中距離重賞で非常に強い。

クイーンズウォークは秋華賞、小倉牝馬Sと直線の短いコースで苦労したが、戦歴通り左回りの直線が長い競馬場だと強い。ある種、わかりやすい適性の持ち主で、今後も条件によって買い消しを使い分けよう。

きょうだいは父フランケルのグレナディアガーズ、父ディープインパクトのアストロフィライトとマイル前後での活躍が目立つが、父キズナのクイーンズウォークは2000mまでは守備範囲。左回りの2000mとなると、大目標は秋だろう。春はヴィクトリアマイルで面白い。


賞賛に値するホウオウビスケッツ

2着ホウオウビスケッツは大逃げデシエルトを捕まえにいくという、もっとも損な役回りを背負う形になり、最後につかまった。これは致し方ない。この厳しいペースでデシエルトをとらえ、かつゴールまで粘ってみせたのは賞賛に値する。マイペースでスローに近い流れが理想かと思われたが、これでひと皮むけたのではないか。

3着キングズパレスはブリンカー再着用で久々にいい脚を使った。33秒台の末脚勝負だと分が悪いが、時計がかかれば出番はある。ちょっと不器用で安定感には欠けるが、こちらも左回りなら大きく負けないだろう。最近は成績にムラがあり、適度に人気を落として好走するから助かる。

2025年金鯱賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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