「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【マーチS】不良馬場、中盤から速くなる特殊な流れを味方に ハヤブサナンデクン、待望の重賞初制覇

2023 3/27 10:44勝木淳
2023年マーチS、レース結果,ⒸSPAIA
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸSPAIA

不良馬場でも速くなかった中山ダート

不良馬場の芝は走りにくくしんどいが、ダートの不良はいつも以上に速い時計が出るため、よりスピードが求められる。ダート界は速く走らない代わりにパワーがある馬が集まるのが基本であり、道悪で逆転するのは芝と同じ。超難解のマーチSは不良馬場で行われ、勝ち時計1:51.4で決着。中山ダート1800mとしては高速の部類もそこまで速い時計ではなかった。この日は全体的に高速決着が少なく、中山ダートの特殊なところが出た印象もあった。マーチSはちょっと特殊なラップだったことを記憶しておきたい。

勝ったのは好位に控えたハヤブサナンデクン。1番人気2着ウィリアムバローズを目の前に置き、同馬を意識した競馬を展開した。4着ロードヴァレンチが枠順を利して逃げ、1、2着を好位勢が占めた競馬は前半1000m通過1:01.6で不良馬場の重賞だったことを考えると、そう速いペースではなかった。レース前半600m36.8で隊列は比較的すんなり決まり、競り合う場面がなく、先行勢はプレッシャーを受けにくかったことが大きい。このレースのカギは前半1000m通過タイムではなく、800m通過後の残り1000mのラップ構成にあった。レース全体のラップを抜き出すと、

12.4-11.8-12.6-12.7-12.1-12.1-12.2-12.3-13.2

向正面に入るまではゆったりとした運びだったが、向正面半ばで12.7から12.1と早めに一段ギアアップしており、最後の200mまでずっと12秒台前半が続く構成は中団以降で脚を溜める組にとってなし崩し的に脚を使わされる形だった。高速馬場特有の中盤以降のスピード勝負は先行した3頭にとっても楽ではなかったはずだが、これまで控える競馬を覚えさせ続けたハヤブサナンデクンにとって、以前の逃げて踏ん張る経験を活かせ、かつ目標を前に置いて差す競馬が見事にマッチしたレース展開になった。

何度か回顧のなかで控えずに行かせたらいいのではないかと主張してきたが、それは差す形で少し甘さがあったからだった。不良馬場で中盤以降、ギアチェンジして淡々と持続するラップ構成はその甘さを相殺した形だ。とはいえ、2着ウィリアムバローズを捕らえたのはゴールした瞬間のハナ差でしかなく、やはり終いは少し甘いと言わざるを得ない。この点は今後も取捨する上で考慮したいところだ。


追い込んだキタノヴィジョンはむしろ展開不向き

2着ウィリアムバローズはハヤブサナンデクンの一歩前で目標になりながらも、持続力勝負を引っ張る形で好走した。こちらも逃げてある程度のペースを刻みながら我慢する競馬を続けてきた経験がこの特殊な流れで活きた。序盤で極端に競り込まれる形にさえならなければ、今後も安定してオープンで戦っていけるだろう。これで中山ダート1800m【3-3-0-0】連対率100%。同舞台の重賞はマーチSのみと年に一度と貴重なだけに、ハナ差2着は痛かった。

3着キタノヴィジョンは11番人気で唯一差し込み、穴をあけた。中山ダート1800mでは4コーナーで内から外に持ち出す進路取りは危険な場面を誘発することもある。キタノヴィジョンの進路取りもデルマルーヴルなどに影響を与え、紙一重だった。そのギリギリの攻防を乗り越え、外に出せた点は好走要因のひとつだろう。いつもそれなりに末脚を繰り出す馬で、ようは展開待ちといったタイプ。冬の良馬場だった師走Sがその典型のような競馬で鮮やかに追い込みを決めた。

その分、乾いた馬場向きといった評価もされたが、勝ったハヤブサナンデクンが2着に敗れた昨年5月不良馬場のブリリアントSで3着。東京ダート2100mを2:07.5で走破した。不良馬場の持続力勝負でも戦える馬で、先行勢が苦しくなった最後200m13.2で出番が回ってきた。もちろん、展開が向いたともいえるが、後ろから行って上位にきたのはキタノヴィジョンだけなので、むしろ展開の逆をいったともとれる。ハマらないケースも多いかもしれないが状態はよさそうで、しばらく追いかけてもいい。

2番人気ハピは7着。高速馬場も中山も合わなかった印象で、休み明けだった分もあった。上位とは経験値の差が出た結果なので、力負けではない。4歳、まだまだチャンスはある。4歳勢で最高着順は4着ロードヴァレンチ。中盤以降の12秒台前半が続く流れで最後は力尽きたが、この流れを引っ張って踏ん張った経験は大きい。このレースを経て、今後はもう少し乾いた馬場ならオープンも勝てるのではないか。


2023年マーチS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【大阪杯】大事なのは先行力 アラタ、マテンロウレオ、あるいはダノンザキッドの巻き返しも
【ダービー卿CT】ジャスティンカフェに好データも、中山への対応は疑問符 ゾンニッヒ、フラーズダルムが面白い
2023年に産駒がデビューする新種牡馬まとめ 日本馬の筆頭・レイデオロは「ディープ牝馬」との配合で期待