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井上尚弥、フルトン戦で「勝ちに徹する」の真意とは?モンスターが警戒する王者の技巧

2023 3/13 06:00SPAIA編集部
井上尚弥,ⒸSECOND CARRER
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ⒸSECOND CARRER

倒そうと力まず、判定勝ちも視野

プロボクシングの前世界バンタム級4団体統一王者で現WBC・WBOスーパーバンタム級1位・井上尚弥(29=大橋)が5月7日、横浜アリーナでWBC・WBO統一王者スティーブン・フルトン(28=アメリカ)に挑戦する。

3月6日に行われた会見で井上は「今回は勝ちに徹する戦いをしたい」と話した。これまでは「勝ち方」にこだわり、ファンを喜ばせるノックアウトを常に意識して戦ってきたモンスターが、無敗のスーパーバンタム級王者に最大限の敬意を払った格好だ。

フルトンは身長169センチ、リーチ179センチで、身長165センチ、リーチ171センチの井上より一回り大きい。長いリーチを活かして距離を取りながらアウトボックス。スピードもフットワークも驚くほどではないが、相手にとってはやりにくいタイプのボクサーだ。

井上は転級初戦。未知の階級で、いきなり試合巧者のフルトンに挑むリスクは小さくない。倒そうと力んで深追いすると術中にはまる危険性がある。

だからこそ「勝ちに徹する」と明言することで、深追いせず確実にポイントを取りながらKOチャンスをうかがいつつ、判定勝ちでも構わないというスタンスを明確にしたのだ。

勝てば国内最多タイの世界戦20勝

井上はバンタム級で4団体統一を果たしたポール・バトラー戦の前にも「長引く想定」と話し、ハードトレーニングでスタミナ強化に努めた。ボクサータイプのバトラーが攻めてこないことを想定して後半戦でのノックアウトをイメージし、実際その通りの結果(11回KO)になった。

試合前は必ず「相手を過大評価する」と話す井上は、頭の中で試合のイメージができているのだ。あらゆるリスクを想定し、その対策を練っておく。ボクシングIQが高いからこそ相手に合わせて戦い方を変えることができるのは井上の強みだろう。

ノニト・ドネアのように向かってくる相手にはカウンターを合わせやすく前半でKOできる確率も高まるが、逃げる相手を倒すのは簡単ではない。バトラーとは実力差が大きかったため、最後は力ずくで倒したが、同じようにフルトンを力ずくで倒しにいくと相手の思うツボだ。

井上は丁寧に左ジャブを突き、前半からポイントを奪って優位に試合を進めたい。序盤の3ラウンドでポイントをリードできるかが一つのカギだろう。機を見て得意のボディブローを当てられれば、フルトンのスタミナを奪うことができ、KOチャンスも出てくるはずだ。

勝てば井岡一翔(33=志成)に並ぶ国内最多の世界戦20勝。同じく井岡に並ぶ日本選手2人目の4階級制覇となる。これまで世界戦19連勝、世界戦17KO勝利、世界戦8連続KO勝利、世界戦最短KO勝利(70秒)など数々の日本記録を更新してきた井上にとって、残された最後の記録と言ってもいい。

5月7日、横浜アリーナのリングで我々はどんな光景を目にするのだろうか。新たな歴史が刻まれる瞬間を見逃してはならない。

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