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Vリーグをもっと身近に!高校生や地域との距離を縮めるサントリーの取り組み

2022 3/19 11:00米虫紀子
日本航空高校と東北高校のエキシビションマッチ,筆者提供
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筆者提供

Vリーグ会場で春高王者・日本航空高と東北高のエキシビションマッチ

春高王者が、もう一度笑った。

今年1月の春の高校バレーで初の日本一に輝いた日本航空高校が、その約1カ月後の2月5日、仙台市でのVリーグ・サントリーサンバーズのホームゲーム前に行われたエキシビションマッチで、東北高校と対戦し、勝利した。エキシビションへの参加は春高前に決まっていたが、王者として臨んだ3年生最後の試合を、笑顔で締めくくった。

サントリーは昨シーズンから、ホームゲームの際に地元の高校などを招待してエキシビションマッチを行ってきた。Vリーガーと同じコート、同じ演出の中でプレーを披露できる貴重な機会だ。

昨年3月の大阪ホームゲームでは、東山高校対市立尼崎高校のエキシビションマッチを実施した。その約2カ月前の春高バレーで、大会連覇を狙っていた京都府代表・東山高校が、大会中に部員の発熱が確認されたため3回戦直前に棄権せざるを得なくなった。日本一への道なかばで、無念の涙で大会を去った彼らに、最後の花道を用意したいという思いからだった。

コロナ禍で観戦できない保護者にも好評

そのエキシビションマッチを、今シーズンも継続して行なっている。サントリーの栗原圭介チームディレクターはこう語る。

「一番の目的は、こういう場を提供して、経験してもらうことです。コロナ禍で試合が普通にできない状況にありますので。それに、やはり親御さんがなかなか会場で応援できない状況でもあるので、そこも含めて、我々ができることはないかと考えて。できることは限られてはいますが、継続してやっていくべきではないかというチーム内での議論があり、続けていくことになりました」

新型コロナウイルスの感染が広がって以降の約2年間、学生の大会は中止になったり、行われてもほとんどが無観客開催だった。今年1月の春高バレーも無観客で、選手の家族や、メンバー外の選手たちは、試合会場に入ることさえできなかった。そうした家族や関係者が、エキシビションマッチは会場で応援することができる。

日本航空高の前嶋悠仁主将は、「家族の前で、久しぶりに、高校最後にプレーを見せられてよかった」と晴れやかな笑顔を見せた。

月岡裕二監督も「それが何よりでした」と安堵の表情を浮かべた。

「丸々2年間、保護者の方々には生徒たちの試合を生で見ていただけなかったので、ずっと陰ながら支えていただいた保護者の皆さんへの感謝のメッセージも込めて、今回来させていただきました」

また、この試合で月岡監督は、春高ではベンチ入りできなかった4人を含む3年生全員を起用した。

「今回は、春高に出られなかった3年生を入れてチームを組んで、全員で引退試合を、と臨みました。最後にこんないい舞台を用意していただいたことに感謝しています」

Vリーグのレベルに刺激を受けた高校生

一方、春高に出場していない東北高校は、2年生以下の新チームで臨んだ。この時期に春高チャンピオンと対戦できたことで得た収穫は多かったと、2年生の安食浩士は語った。

「日本一のチームとどれくらいの実力差があるのかが、もろにわかる試合でした。何本か、自分も通用するんだなと感じられたいいものもあったけど、全体的には守備力やつなぎの面で劣っていると肌で感じました。そこは今後の課題だし、このタイミングで対戦できたのは本当によかったです」

普段の高校生の試合にはない音楽やMCによる演出などは初体験だったが、安食は「すごくテンションが上がって、楽しくプレーできた。いろんな方に自分のプレーを見てもらえるのは新鮮でした」と力に変えられた様子。

エキシビションマッチの後は会場に残ってVリーグの試合も観戦し、トップレベルの攻防に刺激を受けた。安食は「Vリーグを生で観たのは初めて。迫力があったし、1つ1つのプレーに相手との駆け引きがあって、そういうものが体に染み付いているから、動きがスムーズ。そこは自分も吸収したいと思いました。自分もあそこで一緒に戦えるようになりたいです」と目を輝かせた。

今回のイベントについて、日本航空高の月岡監督は、「Vリーグのこうしたトップのチームの、『いずれこういう舞台でやってほしい』という若い世代へのメッセージを感じます。この中からまたVリーグに名を連ねるような選手たちが出てきてくれたらいいなと思うし、夢を与えてもらえるイベントだなと感じます。本当にありがたいですね」と感慨深げに語った。

金の卵を「バスケに持っていかれる」危機感

春高バレーの大会中、出場校の監督に、高校生バレーボーラーや指導者にとってVリーグはどんな存在か、どうあって欲しいかという質問をしたところ、「Vリーグは遠い存在」という声が聞かれた。ある監督はこう語っていた。

「(Vリーガーに)なれる、なれないは別にして、高校生からすると身近ではなく、遠い感じがするので、もっと近くあってほしいという思いはあります。サッカーやバスケットは、すごく地域と選手が近い感じがするんですが…。Vリーガーが、中学生高校生にとってもっと身近で、目標というか、こうなりたいなと思えるような活動をしていってほしいと感じます」

別の監督はこう危機感を口にした。

「『全日本の選手は知っているけど、Vリーグのチームは知らない』ということはざらにあります。やっぱり『あそこに行きたい』と憧れるような競技でないと、子供たちはどんどんバスケットに持っていかれてしまう。実際190cm以上の選手はどんどんバスケに持っていかれている。『バレーに来て』と言っても、『バスケの方が将来がある』、『向こうの方が夢がありますよね』となってしまうんです」

そうした意味で、サントリーの取り組みは、高校生プレーヤーとVリーグの距離を縮める一助となりうる。と同時に、栗原チームディレクターが「地元の人たちに知ってもらう機会を作るために、そうした高校生の力も必要」と言うように、一般の人々にもVリーグを知ってもらうきっかけにもなる。

3月18日に大阪市の住吉スポーツセンターで行われたホームゲーム(対堺ブレイザーズ戦)でも、東山高校対昇陽高校のエキシビションマッチが行われた。コロナ禍で新人戦が中止となったため、この試合が監督就任後初采配となった東山高の松永理生監督は「選手たちに場慣れをさせるという意味ですごくよかった」と感謝した。19日はサンバーズジュニア対堺ジュニアブレイザーズのエキシビションマッチが予定されている。

長い目で見ながら一歩ずつ。独自色を探しながら、サントリーは新たな取り組みに挑戦している。

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