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奥が深い大相撲の行司の世界、多岐にわたる仕事から装束、番付、定年までを解説

2022 5/16 06:00横尾誠
イメージ画像ⒸJ.Henning Buchholz/Shutterstock.com
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ⒸJ.Henning Buchholz/Shutterstock.com

式守伊之助より木村庄之助が格上

大相撲の土俵上を彩る存在として欠かせないのは力士だが、土俵には力士だけではなく行司も上がっている。行司の最も重要な役割は土俵上で取組を裁くことだ。だが、判定をするだけが役割であれば、装束は不要。むしろ、土俵の上を動きやすい服装で上がったほうが良いかもしれない。

アマチュア相撲でその役割を果たす人は「審判」と呼ばれ、白シャツに蝶ネクタイをして判定をする。アマチュア相撲には審判はいるが行司は存在しない。行司は大相撲の世界の独特な慣習、存在なのだ。

力士は本場所の土俵で勝てば番付が上がるが、行司の世界はそうではない。ほぼ年功序列といって差し支えない。それ故、「先輩行司が死ぬと赤飯を炊いて喜ぶ」という言われがあるほどだ。

行司も力士同様に番付があるが、行司の能力として有能だから先輩を追い抜いて上がることは原則としてあり得ない。力士でいう横綱に相当するのが立行司と呼ばれる地位で、立行司は木村庄之助・式守伊之助を名乗る。木村庄之助が式守伊之助より格上とされ、現在では式守伊之助を名乗った行司が木村庄之助に「出世」していく。

以下、三役格、幕内格、十両格、幕下格、三段目格、序二段格、序の口格と続く。力士と同様に十両格に上がると「資格者」となるが十両格に上がる時には行司の年齢は40歳程度になる。

ちなみに現在、十両格の中で一番下の木村善之輔が昭和53年生まれの44歳。幕下格で一番上の木村亮輔が昭和58年生まれの39歳だ。

立行司が短刀を身に着ける意味

行司は本場所では格下から順番に出てくる。基本、幕下格以下は5番、十両格以上は2番の取組を裁き、木村庄之助は結びの一番のみを裁く。現在、木村庄之助は空位となっており、式守伊之助が結びと結び前の取組を裁いている。

幕下格までの行司は素足で土俵に上がる。足袋が履けるのは十両からだ。そして地位に応じて軍配の房の色も決められている。

このように力士同様、行司にも地位に応じて身に着けられるものが変わってくる。その中でも最大の特徴は、立行司は短刀を身に着けていることだ。形式的なものではあるが、立行司は差し違えをしたら短刀で切腹する覚悟で土俵に上がっていることの表れだ。

大相撲の行司の装束


また十両格の行司が登場するのは幕下力士の取組の中盤戦だが、十両格行司が土俵に上がると土俵の照度が上がり土俵が一気に明るくなる。力士は幕下力士が取り続けている最中ではあるが、このタイミングで土俵は明るくなり、このことからも行司においても十両以上は別格ということが分かる。

究極の年功序列、番付を書くのも行司の役割

行司も力士同様、どこかの部屋に所属している。行司全体で定員は45人以内、十両格以上は22人と決められており、現在在籍44人、十両格以上は22人で十両格以上は埋まっている。停年は親方衆と同じ65歳だ。

力士のように降格することがない世界なので、幕下格で一番上の行司の木村亮輔は定員が変更されない限り、十両格以上の誰かが停年か自主退職で辞めない限り昇格できないことになる。行司は究極の年功序列の世界ともいえる。

このような行司の世界だが、ただ土俵上の勝負を裁くだけではなく、本場所中も館内のアナウンスを行ったり、日々の取組編成会議の書記を担当する行司もいる。本場所以外では所属している部屋の事務的な役割を担うことが多い。

そして番付を書くのも行司の役割だ。平成19年11月場所から三役格行司の木村容堂が担当している。番付に書かれる相撲字は根岸流と言われ、行司であれば必ず身につけないといけない修行でもある。

行司が一番目立つところは土俵の上だが、その業務は多岐にわたり、出世も年功序列。それこそ経験を積み重ねた者が上の地位に上がれる。強ければ他者を追い抜いて上に上がれる力士とは対極にある世界だ。大相撲を見る際には、力士だけではなく行司にも目を向けてみると、また違ったものが見えるのではないだろうか。

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