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ラグビーのルール解説「50:22キック」と「ゴールラインドロップアウト」とは?

2022 8/3 06:00江良与一
ラグビーのフィールド,Ⓒmoondes/Shutterstock.com
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Ⓒmoondes/Shutterstock.com

ジャパンにとって有利なルール改正となるか?「50:22キック」

2020年からラグビーの試験的なルールとして一部のテストマッチなどで適用されていたルールのうちのいくつかが、2022年6月より正式なルールとして採用された。そのうちの二つ、「50:22(フィフティ・トゥエンティトゥ)キック」と「ゴールラインドロップアウト」について解説する。

ボールをサイドラインより外側に蹴りだすプレーはタッチキックと呼ばれ、一旦ゲームの流れを切りたい時や自陣深くに攻め込まれた際などにピンチ回避の策として用いられることが多い。

細かいルールがいくつかあるので要点を箇条書きにしてまとめておく。22mラインとはゴールラインから22メートル地点を指す。

①自陣22mラインより内側(ゴール側)に敵チームによって持ち込まれたボールをキックした場合は、ボールがタッチを割った地点でのラインアウトでプレー再開。

②自陣22mラインより前でのキックの場合、ボールがバウンドしてタッチを割った場合は、割った地点でのラインアウトとなるが、バウンドせず直接タッチを割った場合はボールを蹴った地点まで戻ってのラインアウトとなる。

③自陣22mラインより前にいるプレーヤーからパスされたり、22mラインより前で生じた密集から出されたボールを22mより内側にいたプレーヤーがキックした場合は②と同じ扱いとなる。バウンド後タッチを割れば、タッチを割った地点で、直接タッチを割ればキックした地点まで戻ってのラインアウトとなる。

レフェリーが試合中に「Taken back!!」と叫ぶ場面が見られるが、あれはプレーヤーたちに22mラインの手前側から内側にボールを持ち込んでいるからキックの際は②のルールになるよ、と宣言しているのだ。

キックの地点やタッチの割り方などで、ゴールラインまでの距離に差は出るものの、基本的にはタッチキックは相手にボールの支配権を渡してしまうことになるため、ピンチは継続していると考えるべきプレーであった。

しかし「50:22キック」という新ルールはピンチが一気にチャンスに変わってしまう可能性のあるルールなのだ。

自陣内からキックしたボールが、相手陣22mラインより内側でバウンドしてタッチを割った場合、タッチを割った地点でキックを蹴った側のラインアウトとして試合が再開されるのである。攻め込まれていた側が一気に相手ゴール前に迫り、トライを狙えるビッグチャンスを得ることとなるのだ。

このルールの導入の目的は、タッチキック処理に備えるために後方にポジショニングする人員を増やさせることにより、ディフェンスラインに参加する人数を減らし、攻撃側のチャンスを増やすことにあるらしい。攻撃が継続しやすくなれば、観客にとってエキサイティングなシーンは増えるだろう。

一方で、例えばイングランドのように優秀なキッカーを多数抱え、かつFW戦にも自信を持っているチームがこのルールを「最大活用」する弊害も考えられる。キックで敵陣22m内まで攻め込んでは、ラインアウトからのモールという得点パターンに特化してくる可能性もあるのだ。

幸か不幸か、6月から7月にかけて行われたテストマッチでは、このルールが勝敗を分けたものはなかった。ラグビー日本代表(以下ジャパン)には、少なくなるであろうと予想されるディフェンス陣を崩す戦法をまずは第一に考えてほしい。

ただし、ジャパンの必殺のトライパターンの一つである、ラインアウトからのモールというオプションを活かすためにも、SHやSOなどキックの機会の多いポジションのプレーヤーには「50:22ルール」に適応した精妙なキックの技術習得を望みたい。

スクラム回数の減少は吉と出るか凶と出るか「ゴールラインドロップアウト」

自陣のゴール内からドロップアウト(一回地面でバウンドさせたボールを蹴る)でプレーを再開させること。従来のドロップアウトは自陣22mラインの内側とされていたが、このルールも2022年6月から正式に採用された。適用される三つのシーンを列挙した上で、従来のルールとの違いを述べる。

①攻撃側のインゴールノックオン
攻撃している側のプレーヤーが、守備側ゴール内にボールを持ち込んでノックオンした場合。従来はゴール前5m地点まで戻った上で、守備側ボールのスクラムで試合が再開されていた。

②インゴール内でのヘルドアップ
攻撃側が守備側インゴール内にボールを持ち込んだものの、グラウンドにタッチダウンできないままアンプレイアブルと判断された場合。ピック&ゴーを繰り返して、敵味方が折り重なってしまってボールが出てこない、などという場合などが相当する。従来は、ゴール前5mの地点まで戻って攻撃側のチームボールのスクラムとなっていた。

③敵が蹴り込んだボールをインゴール内で味方プレーヤーがタッチダウン
敵が自陣インゴールに蹴り込んだボールを味方のプレーヤーがタッチダウンした場合。従来は自陣22mライン付近からのドロップアウトで試合を再開していた。

ゴール前での攻防をめぐり、今までならスクラムとなっていたプレーの多くはゴールラインドロップアウトで再開されることとなった。これもプレーが再開されたらなるべく素早くプレーヤーたちが動き出すように考えられた改正のようである。

スクラムは試合の流れを左右し、特にFWの士気にかかわる重要なプレーではあるが、遠目には何をやっているのかまったくわからないという負の側面もある。目に見えない細かい駆け引きよりは、誰の目にもはっきりわかるようボールを動かしたい、という意向のようだ。

例えば、大きく逆サイドに蹴って、キックパスのような形でWTBに直接ボールを取らせて、一気に走らせるという場面を増やすことが狙いのようだが、自軍のプレーヤーがしっかりとボールを確保しないと、そのまま逆襲のトライを食らうなどという悲惨な結果を招くためか、やはりここ数か月のテストマッチではそこまでのギャンブルに出てくるチームはなかった。今までの22mライン付近のドロップアウト同様、FWがそれなりにスピードに乗って殺到することができる地点にキックするチームが大半だった。

世界でも有数のスクラムの強さを誇るジャパンにとって、この改正は吉と出るのか凶と出るのか。力比べということだけではなく、攻撃の起点として様々な戦法の基本となっているスクラムが減ることに関しては、ややジャパンにとっては不利な改正であるように思う。

先ほどの「50:22キック」同様、キックの精度を磨き、ボールキャッチを担うプレーヤーとの息を合わせておくほかない。ルール改正の意図通りの、素早い展開を武器にするくらいの戦略で修練を積んでほしいものだ。

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