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ラグビーリーグワン「府中ダービー」でBL東京はなぜ東京SGに完勝できたのか

2022 5/10 06:00江良与一
東芝ブレイブルーパス東京のリーチマイケル,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

苦境続きだった東芝ブレイブルーパス東京

5月1日に行われたラグビーのリーグワン2022ディビジョン1の第15節で、東芝ブレイブルーパス東京(以下BL東京)が27-3で東京サンゴリアス(以下東京SG)に完勝した。BL東京が首位を走る東京SGを蹴散らした「府中ダービー」はラグビーファンを驚かせた。

ここ数年、BL東京の成績は振るわなかった。過去にトップリーグ最多タイの5回の優勝を誇り、日本代表にもキャプテンのリーチマイケルをはじめとして多数の選手を供給する名門チームながら、2016年シーズンからはトップリーグで9位-6位-11位-9位(2020シーズンはコロナ禍によりシーズン途中でトップリーグ中止)と低空飛行を続け、下位に定着してしまっていた。

この動きは不祥事に端を発する本業の低迷と軌を一にする。上場廃止や事業売却などが取り沙汰される状況では、有力な外国人選手や有望な日本人選手の獲得もままならない。重々しかったであろうと想像される社内の雰囲気が選手の士気を低下させているように傍目には映った。

今シーズンは、ここ数年勝てていなかったトヨタヴェルブリッツに勝ったり、負けるにしても大差の惨敗から僅差の惜敗が増えるなど復活の兆しはあった。とはいえ、リーグトップを走る、同じ府中を本拠地にする東京SGには大きく水をあけられていたという印象は否めず、実際にシーズン初対戦では46-60というスコアで負けている。

そして今季2度目の府中ダービーとなった5月1日の対戦も、開始早々いきなり東京SGきってのビッグネーム、NZ代表のダミアン・マッケンジーのペナルティーゴールで先制点を奪われた。

モメンタムとなった二つのプレーと上げ潮ムードを渡さなかったスクラム

しかし、この日のBL東京は一味違った。何しろ東京SGの攻撃が連続しないのだ。

東京SGの特色は、素早いボールリサイクルと圧倒的な運動量で相手チームの選手を疲弊させて次々とディフェンス網に穴を開け、そこを突いてトライを奪うところにある。しかし、この日のBL東京は走り込んでくる敵をとにかくタックルで止め続け、タックル後に発生する密集でもうまく敵ボールに絡んで、相手のテンポをダウンさせることに成功していた。

相手の隙間を作り出すように仕掛け、その隙間を突くことでラインブレイクを果たす、という目論見の成功例は、ついに試合終了まで一度として出現しなかった。トライゲッターになるべきWTBにトライにつながりそうなパスが一度も通らなかったことを考え併せても、いかにBL東京のディフェンス陣が速く、近い場所で突破役の選手を止めていたかがわかる。

その象徴的なシーンが後半5分と7分のサム・ケレビに見舞ったタックル。豪州代表として33ものキャップを持ち、世界トップレベルのペネトレーターである同選手を仰向けにひっくり返し、ボールを奪ったプレーはチームを勢いに乗せるモメンタムとなった。

モメンタム(momentum)とは勢いとか弾みという意味だが、ラグビーでは主に雰囲気をガラリと変えてしまうプレーを意味する。敵の最も強力なプレーヤーを「返り討ち」にした二つのタックルは、BL東京の士気を極限近くにまで高めたに違いない。特に二つめのタックルの後、東京SGはほとんど自陣での戦いを強いられ、チャンスの糸口すらつかめずに終わった。

モメンタムとなりうるプレーにはタックルの他、キックオフとスクラムがある。キックオフは得点後にすべてがリセットされた状態からの最初のプレー故、そこでのボール争奪戦がその後の展開に大きく作用する。

スクラムはFW8人の意地と力のぶつかり合いで、この戦いを制したチームは勢い付き、あらゆるプレーを活性化するのだが、BL東京はスクラムの強力さでも定評のある東京SGのプレッシャーを跳ね返し続けた。

特に両チームともスクラムの最前線でコンテストするフロントローの三人を総とっかえした後半、BL東京は盤石と言える強さを見せ、押し込むことで勢いに乗りたい東京SGをねじ伏せた。ここで流れを渡さなかったのも大きな勝因だ。

攻撃は選択と集中

勝因の多くは守備の堅さによるものだが、ラグビーは点取りゲームであり、守っていただけでは勝てない。この試合も、ボールの保持時間は東京SGの方が圧倒的に長かったものの、BL東京は数少ないチャンスを確実にモノにして、3本のトライを挙げた。

1本目はラインアウトからのモールを押し込んだもの。2本目、3本目はこれでもかと密集サイドをついて挙げたが、3本ともFWの選手が決めた。東京SGの選手は良くも悪くも「見切り」が早い。密集に参加して押し合いへし合いをするよりは、いち早くディフェンスラインを敷いて、「次の展開」に備えることを意識しているからだが、このプレースタイルは時に、密集近辺の守備が薄くなるという事態を生み出す。

BL東京の選手はこの「癖」をうまく利用し、ゴール前に迫ってからは突進力に優れたFWの選手に次々ボールを持たせては突っ込ませるという攻撃を繰り返した。雨でボールも足も滑りやすい状況下においては、手渡しに近い状態で短いパスをつなぎ、じりじりと前進するほうが合理的だということもあるが、この試合は見事にその策が当たった。

BL東京はこの勝利もあり、今シーズン4位でプレーオフに滑り込んだ。5月21日に行われるプレーオフ初戦の相手は奇しくも東京SG。今季3度目の対戦は、BL東京の守備力と東京SGの攻撃力のどちらが勝るかがポイントだろう。BL東京の戦いぶりに注目だ。

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