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エンゼルス・大谷翔平、ノーステップでも規格外な飛距離が生まれる理由

2021 4/2 06:00中村タカシ
エンゼルスの大谷翔平
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Ⓒゲッティイメージズ

全く動かない「トップの位置」

2021年スプリングトレーニングが大詰めのメジャーリーグ。シーズン開幕を直前に控えたMLBにおいて、ある男が伝説を作る準備をしている。ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平だ。大谷はスプリングトレーニングにおいて、投げては164km/hのフォーシーム、打っては打率.548、5本塁打と二刀流完全復活への狼煙を上げはじめた。

中でも、これまでに放った5本のホームランのうち逆方向が3本、センター方向が2本と、1本も引っ張らずにホームランを量産している。現在ノーステップ打法の大谷がセンターや逆方向にホームランを量産できるのか、疑問に思う方も多いだろう。ここでは、その理由について探っていきたい。

まず、大谷のバッティングフォームで驚くべきポイントが「トップの位置が全く動かない」ところだ。厳密に言えば、骨盤は前足股関節へ移動している。だが、上半身からトップはキャッチャー方向へ引いているため、結果的にトップが動いていないように見えるのだ。

つまり、骨盤はピッチャー方向に並進運動しているが、トップはキャッチャー方向へ引く意識を持つことで、より深いトップを作ることができている。これにより、体幹に大きな捻(ねじ)れを生むことができ、爆発的なパワーを溜めることに成功しているのだ。

ヘッドスピードの加速を最大にする「前足」

次に、大谷は投手が足を上げて下ろすとき、前足をほんの少しステップさせて、骨盤を前足股関節の付け根に向けて移動させている。ここでの注目ポイントが、骨盤が並進運動をしている間、前足のかかとは完全に上がって、かつ足裏がピッチャーへ向いていることだ。

前足の足裏がピッチャーへ向くことのメリットは2つある。1つ目は、上半身からトップにかけて捻れを深く作れることだ。

足裏をピッチャーに見せるくらい前足を内側へひねりつつ、骨盤を移動させると上体の捻れが大きくなり、深いトップを作ることができる。前述の「トップの位置が動かない」にもつながるが、前足の足裏をピッチャーへ向けることでトップの引きが深くなり、大きなパワーが生まれる。特大ホームランを打つ土台ができあがるのだ。

2つ目のメリットは、前足の足裏を上げた状態から、かかとを地面につけるときに壁が作りやすくなること。壁によって腰の開きを抑え、バットを最短距離で出すことをアシストしてくれる。そのため、ヘッドスピードを落とさないまま、ボールまで一直線にスイングすることができるのだ。

大谷にとってこの前足の働きは、規格外なホームランを打つためには欠かせないものである。

勢いよく締まる「脇」

大谷は構えの段階から左脇を開けている。これによって、スイングの際に左ひじをへそへ入れやすくなり、最短距離のスイングができるようになるのだ。

また、脇を開けると、より深い上半身のひねりを生めるため、パワーを溜められる。そして、スイングの際に脇を勢いよく締めることでヘッドスピードも上がっている。

大谷は左手の押し込みが強い印象を受けるが、これは左脇が勢いよく締まるため、押し込みが強くなっているのだ。逆方向にもホームランを量産できているのは、この動作も大きく関係している。

インパクトの瞬間も開かない「上半身」

大谷はインパクトの瞬間も上半身は開かず、腰の開きを抑えてバットを最短距離で出すことができている。

そもそもバッティングにおいて、腰の回転で打つ時点でバットを遠回りさせて打つことにつながる。バットを最短距離でインパクトさせるには腰を回転させる意識を捨て、いかに最大のヘッドスピードでヘッドを前に出せるかが重要だ。

ちなみに大谷が打撃で腰を回転させるタイミングは、ボールを打った後である。ヘッドスピードを最大限保ったままボールにアジャストした後、身体にかかる負荷を分散させるために腰を回転させている。

インパクトまで上半身が開かないことで、力を逃がすことなくボールに伝えられるため、多少打ち損じてもスタンドまでボールを運ぶことができるのだ。

大谷はエンゼルス入団1年目、スプリングトレーニングでメジャーの投手に苦戦していた。これに対応するべくノーステップ打法に変えた結果、二刀流1年目にしてシーズン22本のホームランを記録。日本人1年目の本塁打記録を塗り替えた。

2年目は打者専念で打率.286、18本塁打を記録し、このシーズン打率が現時点での最高打率である。3年目は怪我の影響で満足のいく成績は残せなかったが、4年目の今シーズンに向けて、二刀流として投手野手両方で自己最高成績を残せるほどの準備をしてきたことだろう。

シーズン開幕目前。2021年が大谷にとって飛躍の年になることを期待したい。

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