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金光大阪のエース古川温生が追いかける兄の背中、打倒大阪桐蔭の夏へ

2022 4/10 11:00柏原誠
甲子園球場,ⒸKPG_Payless/Shutterstock.com
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ⒸKPG_Payless/Shutterstock.com

木更津総合との激闘制して8強進出

大阪桐蔭の圧勝で幕を閉じた第94回選抜高校野球大会。他校の戦いに目を向ければタイブレーク制度(延長13回以降、無死一、二塁から攻撃)が過去最多3試合で適用されるなど、実力均衡の熱戦も目立った。

大阪桐蔭との大阪ダブル出場となった金光大阪も、2回戦で木更津総合(千葉)と延長13回の接戦を演じてサヨナラ勝ち。古川温生投手(3年)が13回を完投する力投でベスト8入りした。

身長170センチの体を伸びやかに使って、切れのあるボールを投げ込むエース古川。大会を通じて印象に残った選手の1人だ。前評判はさほど目立ったものではなかったが、NPBのスカウトから「今後が面白い」という声も聞かれたほど、大会中に評価を上げた。

兄・優生さんは2019年夏に大阪桐蔭撃破も決勝で履正社に敗退

晴れの舞台に導かれたストーリーがあった。3人兄弟の真ん中。3歳上の兄優生さんの背中を追って野球を始めた。

優生さんも金光大阪のOB。3年生だった19年夏の大阪大会には正捕手として出場している。この夏の金光大阪と聞いてピンと来る人も多いかもしれない。準々決勝で、優勝候補だった大阪桐蔭を延長14回タイブレークの末に撃破したチームだ。

6番打者だった優生さんは土壇場9回に同点打を放って、延長に持ち込む活躍を見せた。1-3とされた14回の裏に逆転サヨナラ勝ちを収めた(ちなみに金光大阪は07年夏にも、中田翔を擁して圧倒的優勝候補だった大阪桐蔭を決勝で破り、甲子園切符を勝ち取っている。大阪桐蔭を相手にした夏の大番狂わせは2度目だった)。

大阪大会の決勝戦は履正社に敗れた。兄の、家族の悲願破れたこの試合を、スタンドで見ていたのが当時中学3年生で現エースの古川温生投手だった。たまたま進学先がまだ決まっていなかったが、金光大阪の躍進と兄の活躍を間近で見て、進学先を金光大阪に決めたのだという。

ストップ・ザ・桐蔭の1番手

兄を含めた歴代の先輩たちが築き上げてきた強い相手にもひるまないメンタリティーは、現エースもしっかり受け継いでいた。大会中も兄とキャッチボールやピッチングを繰り返し、アドバイスも受けていた。

「心が折れない。素晴らしい投手で、素晴らしい人間だと思いました」

木更津総合との激闘を終えた横井一裕監督(47)はエースをそう評した。160球の完投。仲間の適時失策や度重なる逸機にも表情を変えず、エースたる振る舞いをやり切った。

「エースなんだからそんな不安そうな顔してたらあかん。立ち居振る舞いをみんな見ているから」

この冬、同校の特別コーチに就任したOBで元中日の名投手、吉見一起氏(37)から授けられた言葉だ。古川の意識は大きく変わったという。ピンチの場面があっても、捕手の岸本紘一主将(3年)と「絶対折れない」とうなずき合った。

「たくさんのOBがかなえられなかった1勝を勝ち取れた」と1回戦のあと古川は振り返った。そう、初戦の日大三島戦の勝利は、同校にとって初の甲子園での白星でもあった。金光大阪はこの甲子園でまた1つ、殻を破っていた。

夏に向け、チームの課題は多い。周知の通り、大阪における夏の甲子園切符は1枚だけ。今度は大阪桐蔭が直接のライバルになる。ストップ・ザ・桐蔭の1番手として、金光大阪は大きなチャレンジに臨む。

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