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選抜高校野球の微妙な選考に翻弄される球児たち、悔しさも批判も明日への糧に

2022 3/9 06:00柏原誠
オンライン抽選会を見守る大垣日大の阪口慶三監督と選手たち,ⒸSPAIA(撮影・柏原誠)
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ⒸSPAIA(撮影・柏原誠)

大垣日大は21世紀枠の只見と対戦

大垣日大(岐阜)の選手たちは大きなリアクションをとることもなかった。3月4日、第94回選抜高校野球大会の抽選会で21世紀枠の只見(福島)との対戦が決まった。

日中からグラウンドで打撃、守備練習を行っていた。大ベテランの阪口慶三監督(77)はスピーカーを使い、ときには生声でグラウンドに大声を響かせた。日常の風景だった。

午後3時が近づくと、練習をストップ。室内練習場に場所を移し、監督を囲んでオンライン抽選会の画面に見入った。抽選順は26番目。なかなか相手が決まらず沈黙の時間が長く続いた。只見に決まると、監督とともに高校野球専門雑誌を見ながら、相手の基本情報に目を通した。一部の選手が報道対応を済ませると、まもなく、グラウンドに戻っていった。

聖隷クリストファー落選で大垣日大に「辞退すべき」の声も

大垣日大はにわかに大会の「注目校」になった。昨秋の東海大会はベスト4。準優勝した聖隷クリストファー(静岡)よりも高い評価を得て、逆転で2枠目に入った。

逆転選考は何も珍しくはない。今回は聖隷クリストファーへの同情と、日本高野連への批判が相まって疑問の声が拡大した。ネットの世界で暴走を続ける攻撃の矛先はついに、大垣日大にも向いた。絶対にあってはならないことだ。

「辞退すべき」など目を疑うようなコメントもあった。筋違いもはなはだしい。改めて言うのもはばかられるが、大垣日大に非などあるはずがない。心ない匿名の刃が関係者を傷つけていることに思いが及ばないのか。彼らも新聞やネットで「騒動」は目にしている。

春の無念を夏に晴らした2003年の福井商

今回の逆転選出を受け、すぐに思い出したのが2003年の北信越地区だった。前年秋の優勝は遊学館(石川)。2枠目は、準優勝した福井商ではなくベスト8の福井が選ばれた。

福井には好投手がいて、遊学館にも1-2と善戦。また県大会では福井商を下して優勝していた。総合的に福井が「上」とされた。一方で、北信越で3勝しても選出されなかった福井商の気持ちは、悲痛なものがあった。

当時監督だった北野尚文さん(76)は「子どもたちは頑張って、頑張って決勝までいったので、かわいそうでした。でも私は、ひょっとしたらという気持ちもあった」と振り返った。秋の時点でチームに絶対的な強さはなかったのは確か。大ベテラン監督には「センバツはそういうもの」という気持ちの準備があった。それでもチーム一丸で勝ち上がっただけに「ショックだった」と打ち明けた。

大事なのはここからだ。

「炎のエンブレム」を袖口にまとう福井商のナインは、燃えに燃えた。夏の福井大会では決勝で、福井と直接対決。延長11回の激闘をサヨナラで制して、涙の甲子園行きを決めたのだった。甲子園でも2勝を挙げ「全国で勝てるチーム」を証明してみせた。

聖隷クリストファーの無念は察するに余りある。一方で、大垣日大には実力の全てを出し切り、晴れ舞台でベストパフォーマンスを見せてほしい。高校野球生活は残り半年。悔しさや心ない批判を自らの糧とし、力強く成長してくれることを願ってやまない。

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