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雪上の女王・村岡桃佳が「二刀流」決断、東京パラリンピックで陸上短距離に挑戦

2021 4/14 06:00田村崇仁
村岡桃佳Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

平昌冬季パラで日本選手最多メダル5個

スポーツ界で「二刀流」に挑むのは米大リーグの大谷翔平(エンゼルス)だけでない。2018年平昌冬季パラリンピックのアルペンスキー女子座位で日本勢冬季史上最年少の「金」を含むメダル最多5個を獲得した24歳のトップアスリート、村岡桃佳(トヨタ自動車)は今夏の東京パラリンピックで異例の「夏冬二刀流」を決断し、陸上短距離に初挑戦する。

スキー板が1本のアルペンスキー座位はテクニックとバランス感覚が重要な一方、陸上は車いすを力強くこぐ上腕の筋力が求められる。全くの別競技のため乗り越えるべきハードルは高いが、東京大会からわずか半年後に開催される2022年北京冬季パラでは再びアルペンスキーでメダルを目指すと明言している。

車いす陸上でパラ出場は幼い頃からの夢

村岡は4歳のときに突然の病気による脊髄炎で下半身がまひし、車いす生活となった。車いすになると、鬼ごっこをしても友だちは誰も追いかけてこない現実。家に引きこもりがちの生活を送っていたが、小学生時代から父とともにさまざまなスポーツに触れ、スキーよりも最初に挑戦したのが車いす陸上だった。

「陸上でパラに出てみたい」。風を切って走る感覚が忘れられず、幼い頃の夢を東京でかなえるチャンスを目指そうと決めた。

本格的に陸上競技に取り組み始めたのは2019年5月。「雪上の女王」は競技会に参加し始めてから3戦目となる2019年7月の関東パラ選手権100メートル(車いすT54)を17秒38で制し、いきなり日本記録を樹立。デビュー戦となった6月2日の日本選手権は18秒36の2位で、わずか1カ月で1秒近くタイムを縮めた。

岡山に拠点を置くWORLD-ACまで自宅のある埼玉から毎週往復し、国内外で陸上とスキーの両大会に出場しながら練習に励む過酷な日々。2020年1月の国際大会では自己新の16秒34をマークし、世界パラ陸連の公式サイトによると、東京パラ出場圏内のランキングで6位に付ける。

海外選手の「夏冬二刀流」成功も刺激に

2018年平昌冬季パラリンピックの開会式で、旗手の大役を努めて日本選手団の先頭に立った。新型コロナウイルスの影響で東京パラが1年延期になり、東京、北京両大会の出場資格を得るため、2競技を同時にこなす異例の挑戦。それでも「大変さはあるけど、両方とも新鮮な気持ちで取り組めているので楽しい。より強くなれる期間が増えた」と前向きだ。

海外には尊敬すべき「二刀流」の先輩もいる。夏冬両パラリンピックで計17個のメダルを獲得した鉄人、タチアナ・マクファデン(米国)は車いす陸上とスキーで偉業を達成した世界的に有名な女性アスリートだ。

圧倒的な強靱さで「ビースト(野獣)」の愛称でも呼ばれる。平昌パラではノルディックスキー距離の女子スプリント座位でオクサナ・マスターズ(米国)が悲願の金メダル。ウクライナで手足に先天性の障害を抱えて生まれ、孤児院で育った苦難を乗り越え、2012年ロンドン大会はボートで銅メダル、2016年リオデジャネイロ大会では自転車で出場した。東京大会も目指している。

そんな世界一流の海外アスリートにも刺激を受け、村岡は「夏冬二刀流」に厳しい現実を覚悟の上で挑戦する。夢は「世界のトップは村岡だ」と誰からも言われる選手になること。陸上で鍛えた上腕や肩周りは厚みを増しつつある。東京大会でも「二刀流」のエースが主役になる可能性を十分に秘めている。

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